2004年11月18日

11月18日付・読売社説(1)[自民改憲草案]「新憲法へ一つのたたき台になる」

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20041117ig90.htm

 ついに自民党が憲法改悪の具体的内容に踏み込むという。改悪草案の起草に着手し、来年11月に発表する見通しとのことである。過去3度に渡って草案を発表し、憲法改悪の先頭を突っ走ってきた読売としては本望だろう。「起草委の初会合で示された自民党の憲法改正草案大綱案は、大要で共通する」との評価に、先陣を斬る読売の自負が見える。だが、国民にとって、あるいは世界にとってこの憲法はどういう存在であろうか。

 「国際貢献」との美名の元に武力行使を容認し、「伝統の尊重」と言いながら前時代の封建的システムの復活を狙う。「新しい権利の明記」は、わざわざ明記しなくとも現憲法で十分保障されているばかりでなく、この草案を準備している者たち自身が侵している権利である。例えば「環境権」とは何を指して言うか。京都議定書の議長国でありながら同盟国アメリカを参加させることもできず、「公共工事」の名の元に山林や湖沼、干潟を破壊する。しまいに珊瑚礁を破壊して殺人のための基地を建設する自民党のどこに「環境権」があるのか。

 憲法について、自民・読売共通の問題点は、こんな表面的な所ではなく、もっと根源的な所にある。それは、憲法擁護義務の規定である。これは単に「誰に擁護義務があるか」という軽易なものではなく、「誰が主権者であるか」を規定する、いわば憲法の立脚点である。これを抜きにして現代の憲法を語ることはできない。読売社説でそこに触れていないのは、それこそが彼らの狙い所であり、逆に突かれて痛い弱点でもあるからだ。

 自民「憲法改正プロジェクトチーム」が6月に発表した「論点整理(http://www.jimin.jp/jimin/kenpou/finish13.html)」を追いかけてみよう。

 総論の第Vに「ともすれば、憲法とは『国家権力を制限するために国民が突きつけた規範である』ということのみを強調する論調が目立っていたように思われる」として、国家権力が制限されることを敵視している。しかし、これこそが民主主義が発達した現代における憲法の共通特質である。民主主義国家に於いて主権者は国民である。しかしその主権の行使は主として選挙を通じ、自分の主権を委託すべき「代理人」を選ぶという制度が確立されているのみである。実際の権力行使は、選ばれた代理人、すなわち政治家が行っている。政治家の下にあるべき官僚も同様である。権力行使者が主権者の意思を越えて暴走しないよう、制限を加えるのは当然のことである。
 現憲法ではこれを99条で「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と規定している。この規定から言えば、為政者の側から「憲法改正」などという声が出てくること自体がおこがましい。主権者は国民であり、国民の中で「憲法を改正して自らの主権を拡張すべき」と考えたとき、初めて憲法改正の必要性が議論されてもよいのである。
 プロジェクトチームの規定はどうか。憲法を「国民の利益ひいては国益を守り、増進させるために公私の役割分担を定め、国家と国民とが協力し合いながら共生社会をつくることを定めたルール」に変えるとしている。国家と国民は協力し合うような関係ではない。国家は「全体の奉仕者」である公務員の集合体であり、その行動は国民によって規定される。主権者は国民なのである。国家を国民と同列に置き、「役割分担」を求めるなど誤解も甚だしい。しかし、読売が発表した憲法草案では国民に憲法擁護義務を課すなど、権利制限の方向を明確にしている。このような逆流に我々主権者が押し流されるようなことがあってはならない。

 各論を事細かに見ていくとあまりに膨大になるので割愛するが、いくつか触れておこう。

 前文の部分で「利己主義を排し、『社会連帯、共助』の観点を盛り込むべき」とある。一見良さそうに見える言葉だが、米国の利己主義に世界一迎合しているのはどこの政府か。自国民が外国で拘束された時、全力で救出にあたらなかった政府が「社会連帯」をいうのは、「国民同士で勝手にやってくれ」という責任放棄ではないのか。

 「非常事態全般」として災害と有事(=戦争)を故意に同一視する。「公共的な責務」として国家への貢献を要請する。両性の平等を敵視する。社会権(25条、文化的生存権)を守るためと称して国民に責任を負わせ、結果として国家の責任を免罪する。「政治主導の政策決定を徹底」として国民主権を制限。大臣の国会出席義務を緩和し、国会を政府から切り離す。首相の権利を強化し元首的性格を強める。地方自治の推進と称して国家の責任を放棄する。

 そして、「改正手続き」の緩和である。現在は国会の2/3が賛成する議決によって初めて憲法改正の提案ができ、さらに国民の承認を得る必要がある。これを、国会の1/2で提案できるように、さらには2/3の賛成ならば国民の意思を問わず改正できる方向を狙っている。もしもこれが実現すれば、「国会で多数さえ占めることができれば」クーデターを起こすことができるわけである。

 細かく見ていけば評価すべき権利もあるようだが、これは憲法改悪を実現するために奴らが撒いた餌であることを知っておかねばならない。もし、そうでないというのなら、各項個別に国民の賛否を問えばよい。そうではなく一括しての採択を狙うのは、卑怯であると同時に、見る目さえ持てば一見評価できそうな政策が撒き餌であることも見破れるのである。抱き合わせ販売は公正取引法違反である。立法に関してそういう用語はないが、卑怯であることは間違いない。

 何が「独自憲法」か。憲法改悪を最も望んでいるのは米国ではないのか。改憲に熱心な者ほど対米従属の姿勢が見えるのはなぜか。米国による改憲の圧力は今に始まったことではない。占領下、米軍の補助をさせるためマッカーサー指令で自衛隊を組織させた。その当時米国政府内ではすでに日本の軍備に向けた改憲論議がされていたという。こんな恐ろしいことを企みが存在するということを、我々は知っておかなければならない。そして、その方向性を天下の大新聞が率先して示していることも。さらに云えば、ただ知るだけでなく、それを人に知らせることが決定的に重要となるだろう。

追記 当エントリーにTBいただいた反論・疑問に対し説明申し上げるためのエントリーを用意したので、ご参照いただければ幸いである。

http://anti-yomiuri.seesaa.net/article/1114021.html
posted by 斬執行人 at 00:00 | TrackBack(19) | 社説批判:憲法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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